年寄りどもにも礼を言わなくては…」
「お役に立てて、なによりです。」
地震は、もうひとつ、大きな災いをもたらしました。
濁った水に触れた人々の間に、はやり病の兆しがあると、医事職部から密かな報告があったのです。人口が密集する王都にとって、はやり病はもっとも恐ろしい事態でした。すぐさま、神殿に入った神官様によって、王都には網の目のように結界が張り巡らされました。さらに指示を受けた老練な神官たちが、密かに病の気脈を封じ、その間に医事職部が特効薬の調合にとりかかったのです。事態が収束に向かっていると、王宮の中枢部に安堵の空気が流れた折も折、最も大切な材料の鈴音草が花を閉じてしまったという報せがもたらされたのでした。
「当代きっての神官が、こんな雑草のために一晩徹夜か。
全く、振り回されたな。」
「王。お慎みください。この子達に聞こえたら…」
ふと、言葉が途切れます。
「神官様！」「雪兎様！」
駆け寄ろうとする小姓たちを、王の手が遮りました。
「気が緩んだのだろう。神官殿を休ませる。」
「床をご用意いたします。あちらへ…」
「病人ではない。ちょっと昼寝をする程度さ。
あの四阿でいい。」
「は…しかし…」
「ついでに、俺の昼までの予定もキャンセルだ。
全ての手配が付いたという報告以外は、
一切合財お引き取り願え。」