サクラ姫は兄王と共に医事職部を訪れました。案内されたのは、広い薬草園です。
「わあ…！」
サクラ姫がぱっと笑いました。さまざまな薬草が穏やかな日差しを浴びて可憐な花を揺らしています。その一角に、不思議なひと群れの花がありました。目立たぬ小さな花だけれど、小さな鈴に似た音を鳴らし、よい香りもします。
「姫様に、お預けしてよかった。」
花の傍らで神官様が、微笑んでいました。
「このお花…あの鉢植えと同じですね？」
「はい。鈴音草といいます。」
「夕べ見た夢は、このお花？」
「はい。水が合わないのだと…私にも教えてくれました。」
ついこの間のことです。遺跡から起こったと思われる地震のため、都の水源が濁りました。砂漠に暮らす人々にとって水の問題は生死にかかわります。王は、王宮地下に保有する豊かな湧水を開放し、やがて濁りも鎮まりましたが…。
「その時、水の流れを少し変えました。薬草園は地下の水脈から
直接水を得ていますから、影響を受けてしまったのでしょう。」
「ああ。それで、お水が違うって…」
「はい。なかなか難しいお花ですが…姫様の助けがあったので
思ったより早く、心を開いてくれました。」
「私…？」
「花とお話ししてくださいましたね？
この子達にも、姫様の心が伝わったと思います。」
神官様の手助けになったと聞いて、姫は幸せそうに笑いました。
「お部屋の苗も、こちらに移してあげたら、すぐに咲きますね。」
「よかったな。
薬にならない花をつけたら、お前に食われるって、
こいつらも、必死だったんじゃねーか。」
「兄様！！」
お転婆な仕草で兄の広い背をぶつと、姫君は鉢植えを取りに駆けていきました。