++ 大好きな人〜Secret Date〜 ++
＜２＞
「とーや・・これ・・」
桃矢の後から入場した雪兎は、何故か薔薇を一輪持っていた。
「ぶっ！！」
「や、やっぱり・・間違われたのかな？」
「あーはっはっはっはっー！！」
珍しい程に大声を出して笑う桃矢に、雪兎は更に顔を真っ赤にして頬を膨らませていた。
「そんなに笑わなくたっていいじゃない！！」
「悪い悪いっ、でも自覚していないかも知れないけど・・ゆきはその辺の女よりも綺麗だからなー」
「それ、誉めているの？けなしているの？」
（誉めてるんだよ、当たり前じゃないか）
心で呟きながら、不純にも『拗ねているゆきも可愛い』なんて思っていた。
「どんな乗り物にも付き合うから、もう怒るなって」
「う・・うん」
少し腑が落ちない顔をしながら、薔薇を見ていた雪兎だったが、直ぐに乗り物の品定めをするかのようにあちらこちらを見まわしていた。
ありとあらゆる乗り物を制覇した雪兎は、桃矢が買ってきてくれたフライドポテトを食べながら極上の笑顔で桃矢に視線を移した。
「面白かったねー」
「ああ、しっかし本当にタフだな・・」
少々疲れ気味の表情を浮かべながらも、満足げな雪兎を見ていると文句さえも掻き消されてしまう。
しかし『メリーゴーランド』これだけは勘弁して欲しかったと桃矢は今でも後悔していた。
百歩譲って馬車の中に乗る事にしたが…思い出しただけでも…桃矢は顔を赤くして首をブンブンと横に振った。
「とーや『メリーゴーランド』に乗った事まだ照れてるの？」
クスクス笑う雪兎を横目で睨み、大きな溜息を一つこぼした。
「お前は何か似合っていたけどさ、俺は絶対に可笑しいって」
「そうかなぁ、似合っていたよ」
「似合っていないって…」
ブチブチ文句を呟きながら腕時計に目をやると９時を回ったところだった。
「ゆき、それ食ったらそろそろ・・」
「あっうん。あ！その前に最後にアレ乗らない？」
そう言われて雪兎が指差した方を見ると、大きな観覧車がネオンに輝いていた。
ほんの少し躊躇しながら意を決したように頷いた。
「…そうだな、じゃ・・あれが最後だぞ？」
「うん！」
溢れんばかりの微笑みと散々周りのカップルのムードに惑わされて桃矢は雪兎を思
いっきり抱き締めたい衝動にかられた。
「とーや？」
自分の名を呼ばれて正気に返った桃矢の目の前に雪兎の手が差し出されている。
（この・・手は・・？）
更に鼓動が強くなり、それを隠すように表情を作って
「あ、悪い・・行くぞ」
とスタスタ歩き出した。
あの手を握り返したかった。
しかし動揺が伝わってしまいそうな怖さと、周りの目も気になって雪兎の好意を素直に受け取れずにいた。
１０分程の待ち時間の後、二人は小さなゴンドラの中に入った。
少しずつ、ゆっくりゆっくりと上がっていく観覧車。
向き合って座っている桃矢は、ずっと下を向いたまま動こうとしない。
「とーや？」
心配そうに顔を近づけてきた雪兎に、慌てて顔を上げた。
「あっああ、ダイ・・大丈夫だ」
「でも、何か顔色悪いよ・・」
「・・んだ・・」
「えっ？」
「ダメなんだ・・俺、こういう不安定な乗り物で長時間浮いているの・・」
瞳を見開いて驚く雪兎に視線を合わさないように桃矢は、ガックリと肩を落とし下を向いたまま呟いた。
「あ・・でも、ジェットコースターとか乗って・・」
「あれは一瞬で終わるから平気なんだ」
「飛行機にも乗れたよね？」
「あれは不安定な乗り物に入らない・・」
「とーや・・言ってくれたら良かったのに！何で・・」
悲しそうに桃矢の隣りに座り直した雪兎に顔を向け、ゆっくりと息を吸ってから口を開いた。
「言っただろ、『どんな乗り物にも付き合う』って」
「あ、でも・・だからって」
「じゃあ、代わりに暫く気を紛らわさせてくれ・・」
そう言って、桃矢は雪兎のメガネを外し、ゆっくりと唇を重ねた。
右手はメガネを握り締め、左手は細い雪兎の肩をしっかりと抱き寄せて、静かに、それでも強く雪兎の唇を吸いながら舌を絡ませた。
熱い吐息が桃矢の頬をくすぐる。
「んっ・・と・・ぁっ」
ゆっくりと唇から離れ、そのまま雪兎の胸に顔をうずめた。
服の上からでも、雪兎の白くて柔らかな温もりが伝わって、桃矢の表情も少しず解れてれていった。
桃矢の背中に手を回して優しく抱き締め返しながら、雪兎は眼下に広がる夜の街並みを眺め続けた。
長くて、短い時間が流れていった。
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出口ゲートを抜け、駅周辺は賑わっていた街も、住宅地に向かうにつれて人の姿も見えなくなっていた。
暗い道を二人はゆっくりと歩いていた。
「ゆき」
「んっ、何？」
「あ、きょ・・今日はありがとうな」
「ううん、こっちこそ一緒に来てくれて嬉しかったよ」
にこりと微笑む雪兎に、桃矢はスッと手を差し伸べた。
不思議そうな瞳を投げかけた雪兎の手を取って照れ笑いを浮かべる。
「さっきお前の手を握り返せなかったからな」
「とーや・・」
「ゆき、気づいていたか？今まで俺たち二人だけで遊びに出掛けた事無かったって」
「あ・・そう言えば・・うん、そうだね」
「だからさっ、嬉しかった。ガラにも無いけど本当に嬉しかったんだ」
「僕も・・それに、とーやの弱点も見つけられたしね」
クスッと笑って雪兎は顔を赤くしている桃矢を覗きこんだ。
「凄く意外だった。とーやにも苦手なものがあるんだって」
「あのなぁ・・俺だって弱点の一つや二つくらいあるぞ」
そう言って、ふと思い出したようにニヤリと笑って雪兎を見返した。
「俺だって、ゆきがあんなに拗ねた顔を初めて見られたしな」
意地悪な言葉を投げかけられた雪兎の顔は、さっきまでの桃矢以上に赤く染まり、
戸惑いの表情を隠しきれないでいた。
「とーやのイジワル」
「ははっ・・悪い悪い。まっ、これでお互い様だな」
そんな話を弾ませながら歩いている内に、二人は雪兎の家の前に着いていた。
繋がれた手が離れ、雪兎は門戸を開けて桃矢の方へ振り返った。
「とーや・・寄っていく？」
投げかけられた言葉に桃矢の心臓が大きく鼓動した。
雪兎の家には何度も入っているし、全然特別な事でもないのは百も承知だった。
でも、これ以上雪兎に近づけば、自分が何をしてしまうか桃矢は分かっていた。
（ゆきを傷つけたくない。でもっ、このままじゃ絶対に…）
押さえきれない胸の高まりを何とか押さえ、雪兎を見た。
「今日は止めとくよ」
「う・・ん、もう遅いしね。さくらちゃんもお土産待っているだろうしね」
スッと瞳が曇り、切なげな表情を浮かべる雪兎に、桃矢はそっと頬に手を添えた。
「そんな悲しそうな顔するなって。明後日には学校も始まるんだぞ」
「えっ、僕そんなに悲しそうな顔していた？」
「してた」
「ごめんね・・」
「謝るなって。じゃあ明後日いつもの所でな、寝坊するなよ」
「う・・ん」
曖昧に言葉を返す姿に見かねた桃矢は、雪兎の透き通った美しい髪をクシャクシャと乱れさせて目を細めた。
「明日、俺んちに夕飯食いに来るか？」
「えっ！いい・・の？」
雪兎の瞳がパッと輝く。
「ああ、バイトの帰りに迎えに寄るから待ってろ」
「うん、ありがとう」
はにかんで答える雪兎に軽く手を振って、桃矢は雪兎の家を後にした。
いつもの事ながら、雪兎の表情一つ一つに惑わされている自分がいる。
いつ理性が崩れて、雪兎を泣かせてしまうかもしれない・・危ない綱渡りのような毎日を過ごしていても、ついつい雪兎に甘くなってしまう。
桃矢は「惚れた弱み・・だな」と呟き
澄んだ夜空に小さく輝く星を見ながら家路を急いだ・・
ＥＮＤ
天使のつばさ様、ありがとうございます〜♪
さくらちゃんを振り切って、桃矢君、堂々のおデートでした！！えらいぞ、とーやっっ！！！ゴンドラのシーンがねっっっ！！感激的に絵になりますよね〜〜っっ！！夜景を見つめつつ、雪兎さん、どんな思いでいらしたんでしょうか…。桃矢君、次のデートは是非っっっ！！！
おねだりしてよかった〜〜〜！！！
enn_mama 拝
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