「Anniversaryの翌日」
| 「とーや！ とーや！」 身体を揺らされて意識が戻る。 「ん・・・なんだ？」 「ほら、もう9時だよ！ 起きなきゃ！」 ほ〜ら、と言いながら、雪兎は桃矢の薄い掛け布団をはぎ取る。 「・・・・お前元気だな・・・・」 さっさと掛け布団を折りたたんでいる雪兎に呟く。 「ん？ 何か言った？」 にっこり笑いながら振り向く雪兎を見ながら桃矢は思いっきり背伸びをした。 昨日は雪兎が木之本家で暮らすようになって１周年の日。 学校やバイトでバタバタしていて、雪兎も桃矢もすっかり忘れていたのだが、 さくらと藤隆が覚えていて、いつもより豪勢な料理が並んでのお祝いとなった。 思わぬ展開に驚いて戸惑う二人に、ケロベロスが 『結婚記念日ちゅうわけか〜』 というセリフを投げかけ、桃矢は固まり、雪兎は満面の笑顔になった。 その後は・・・・ 部屋にあがって１年前のこととかを話し合っているうちに盛り上がって・・・。 桃矢が覚えているのは時計の針が２時を回っていたぐらいまでだ。 そしていつの間にか寝てしまって。 今朝は二人とも朝食の当番ではなかったのと、久しぶりの揃ってのバイトも休みになったために朝寝坊を決めていただけに、何となく目覚めが悪かった。 「あ、とーやそこのバケツ取って！」 桃矢をたたき起こし、用意されていた朝食を一緒にとったあと、雪兎は庭の草取りを始めた。 作業用の服に着替え、腕をまくり上げて、やる気まんまんの雪兎に比べ、どうも桃矢は調子が出ない。 庭に通じる窓枠に腰を下ろしたまま、ぼんやりと働く雪兎を眺めていた。 「大丈夫？ とーや。」 差し出したバケツを取りに駆け寄ってきた雪兎は、首を傾げながら桃矢の顔を覗き込む。 「ああ、少し眠いだけだから。」 そう？ と聞き返しながらも雪兎は作業に戻っていく。 その背中を目で追いながら桃矢は溜息をついた。 「本当に元気だな・・・・」 どんどん綺麗になっていく庭を眺めながら再び呟く。 男同士・・・そのことに違和感はない。 特に雪兎とのことでそれが障害になったことは自分の中ではなかった。 けれど、やはり身体的な面で・・・という問題は残っている。 桃矢もそう思って、そういった行為の時は雪兎の身体のことを一番に考えてやってきた。 自分の欲求を抑えてでもだ。 聞きかじった知識での最初のころと比べ、随分最近は慣れてきたように思う。 それでも、負担が大きいのは、いわゆる受ける側の方じゃないかと思う・・・ そのはずなんだけど・・・・と、そこまで考えて桃矢は顔が熱くなった。 こんないい天気の昼間に、窓辺で考えること自体とんでもないことだ、まして相手の雪兎は健康的に草取りをしているというのに。 でも・・・・ でも、あんなに自分よりも元気な雪兎を見ているとつい考えてしまうのだった。 「とーや、本当に大丈夫？」 ポンと肩を叩かれて思わず桃矢はのけぞってしまった。 「わああ。」 「な、何？ どうしたの？」 顔を真っ赤にした桃矢を見下ろして心配そうに雪兎は眉を寄せる。 「い、いや、何もない、何もない！」 「でも・・・・顔真っ赤だよ、熱あるの？」 すっと額にのばされた手が途中で止まった。 「あ、手を洗わないと。」 「大丈夫だ、ちょっと寝不足なだけだから。」 「うーん、昨日も遅かったからね。」 （おいおい、そんなにあっけらかんに言わないでくれるか？） 「でも６時間は寝てるよ、とーや。寝付いたの２時半ぐらいだったから。」 （時計見る余裕があるのか！ お、俺はないぞ！ って寝付いたのは俺が先なのか！） 密かにショックを受ける桃矢に気づかないまま、雪兎はうーんと考え込んでいる。 「・・・・・ゆき。」 「うん？」 「おまえさあ、身体・・・・・その怠いとかなんか・・・・大丈夫か。」 「え？ 体調？ うん、大丈夫だよ。」 どうして？と逆に問われ桃矢は戸惑う。 「いや、どうしてって・・・・そのなんだ。」 「とーや？」 「その・・・・・とにかく、大丈夫なんだな！」 そうなら・・・・。 「うん。」 「嘘じゃないな。」 「う、うん。」 身体のことでそこまで念を押されることの理由が全く分らない雪兎が頷く。 「そうか、そうなんだな・・・・。」 じゃあ、もう少し・・・・もう少し・・・・欲求に正直なっても許されるかもしれない・・・・ その思いが心の奥底から沸々とわき出てくる。 「ゆき！ もう草取りはいいから上がって来いよ。」 思い立ったが吉日と言うではないか！ 桃矢は心で拳を握る。 「ああ、そうだね。」 ぱんぱんと手の土を払って雪兎が笑う。 「もうすぐお昼だしね。さくらちゃん達ももうすぐだろうから。」 「え？」 勇んでリビングに戻りかけた桃矢の足が止まる。 「さくら達？」 「うん、知世ちゃんとかクラスのお友達が４，５人遊びに来るってんだって。」 「聞いてないぞ。」 （今から試したいことがあるんだ！ なんなんだお友達って！） 桃矢はついムッとする。 「朝さくらちゃん、言ってたんだよ。何か夏の研究課題の打ち合わせなんだって！ あ、とーやはまだ寝てたから。」 「・・・・・朝？ おい、ゆき、お前何時に起きたんだ？」 「え？ ６時だよ。とーや疲れていたから起こさないようにしてたけど。」 （そ、それでその元気なのか！） 「じゃあ、お昼の用意しようか。」 立ちつくす桃矢の横をすり抜けて雪兎がキッチンへ向かう。 思った瞬間に打ち砕かれた野望にちょっとショックを受けてしまった。 それどころか雪兎の体力を思い知らされた気がする。 「お素麺がいいかな？」 キッチンの奥からかけられる声に桃矢は大きく溜息をついて首を振った。 所詮、自分は雪兎には勝てやしないんだ・・・・。 雑草が取り除かれ綺麗になった庭を遠い目で眺める桃矢だった。 |
２００２・７・１２
日生 舞
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日生様のお宅「桜紅葉」で１周年を記念して行われたアンケートにお答えして、頂戴しました。 ふふふ。元気な元気な雪兎さんです♪ このお話では、お２人は同居をして１年の新婚さんです。でも、実は日生様のお宅のお２人は、いまだ別居状態。お伺いしたら、本宅のお話とは今のところ別設定。でも、この先のどこかの時点かもしれないし…という微妙なお答えでしたわ〜♪♪ わたし的には、ぜひとも甘甘超絶しあわせな雪兎さんを願っておりますが（笑） そのためにも、桃矢君は是非パワーアップ♪まず、勝負は今夜ですわよ〜〜っ！遠い目している場合じゃない（笑） そしてね、いずれは雪兎さんと共に独立♪ …o(//▽//;)oo(≧▽≦)o←こーふん中。 日生様、素敵なお話、ありがとうございました♪ |