刻　印
原作　第９巻より



その少年の歩く後姿から、かすかな気配が漏れ出してくる。

見送る桃矢の表情がにわかに険しくなるのを、傍らの雪兎は不思議そうに見上げた。
　「とーや、どうしたの？」
　「お前、帰ってこないから…」
掃除のゴミ出しに出たきり戻らない雪兎を案じ、追いかけてきた桃矢の前で、その少年はさりげなく会釈をして背中を向けた。

　 　「あいつ…父さんに、似てる」

この不思議な気配を知っていた。桃矢の身近に常に異変をもたらす、甘く強い魔力の気配。しかし、それだけではなかった。禍まがしいとさえ思える魔力の奥底に、真っ直ぐ桃矢を見つめる瞳の力を感じる。それは父、藤隆によく似ていた。

　「ああ。眼鏡で優しい感じの笑顔のとことか、似てるね」

雪兎は、おっとりとした口調で、桃矢のつぶやきに相槌をうった。それだけではない、と、肩を鷲掴みにしたくなる衝動を押さえて、桃矢は穏やかに笑う雪兎を見つめた。一体何があったのか、あの少年と接触して、雪兎に異変が起こっている。
弱まりつつも、常に雪兎に寄り添っていた、あの綺羅綺羅しい気配がなかった。

時が迫っている。
桃矢はこっそりと唇を噛んだ。

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